ビジュアルに訴える小説
■自分の書いた小説の描写が、読者に伝わるかどうか、作品を書き始めた人 にとってはかなり気になると思います。
とくに、オリジナル作品を書いているときには、その作品世界が本当に読者 に理解されるか、その場面がきちんとイメージされるか、まったくわかりません。
もちろん、作者自身はイメージしていて、それを文章にしているわけですが、 読んだ人は「作者がもっている知識」をもっていません。 作者が「これはみんな知っているはずだ」と想定していたことが、ただの思い込み だったということも、よくあります。
ですから、読者のもっている知識を前提にしないで書いた方がいいのですが、 ここで出てくる問題が「どの程度、説明すればいいのか」ということです。 あまり詳しく書いてしまうと、読者が想像する余裕を奪ってしまいます。 これでは、小説というよりレポートを読んでいるような感じを受けることに なります。
小説は感情に訴えるものなので、想像する余地が多いほど、おもしろくなり ます。説明的な描写が嫌われるのは、このためです。 「想像」と「説明」のバランスがいい小説は、場面が映画のようにきれいに 流れていきます。 論理展開を追うことがおもしろい小説なのか、ビジュアルに訴える小説なのか、 作者が最初に決めておく必要があります。
それを意識していることで、作者はバランスをうまくとることができる ようになります。 最初に決めずに、適当に流して書いていると、読者が読みにくいものが できあがるかもしれません。
推理小説は論理展開が重要ですが、探偵の動き方や表情などは、ビジュアルに 訴えることができます。 このあたりを意識して書けば、キャラクター主導の作品をつくることも可能です。 現在では、そのような領域横断型の作品を書いてみることが必要なのかもしれません。 少なくとも、従来のやり方をまねて、パターンに陥るよりも、新しい発見をする方が 作品に新鮮さと勢いをもたらします。
作者の側からみれば、ビジュアルについて考えることは、もう1つメリットが あります。 それは場面の描写が自然かどうかをチェックできることです。 ビジュアルに訴える場面が書けていれば、それは自然な描写ができている ということです。 ビジュアル的に無理があるような気がしたら、説明ばかりが続いていて人物の 動きが止まっている可能性があります。 そういう場面は、説明ではなく、人物のアクションを中心に書き直すことが 必要です。 このチェック方法は、初心者にも有効です。
原稿をしばらく放っておいて、少し忘れてから、普通の読者として読んでみて 不自然な箇所を素直にチェックすればいいだけです。 作者としての思い込みが入ると、このチェックはできません。 ですから、しばらく原稿を放っておいたほうがいいですね。 ビジュアルについて考えれば、文体をつくることも可能です。 自分の文章が、説明調なのか、アクションに向いているのか判断し、 そこからビジュアル化に対応できる文体をつくっていきます。
ここで、自分の文章が説明調であることを認めるのは、遠回りのような 気がするかもしれませんが、それを意識しないと効果的に切り替える ことができません。
最初から説明調であることがわかっていれば、それをそのまま持ち込まずに いろいろな要素を入れることでアクションとビジュアルを含んだ作品をつくる ことができます。
もともと、物語はビジュアル的なものですから、現在の心理主義的な 思い込みを克服すれば、源流に戻れます。 作品に動きがなく、原稿を書くこと自体がストップしている、という人は ビジュアルの面から見直してみてはどうでしょうか。