21世紀の小説は、これから
■小説を書いていると、ストーリー展開で行き詰まることも多いですね。 これは、単にストーリーの問題だけではなく、主人公の行動が限定されて しまうことを意味しています。
本来なら、活躍の範囲が広いはずの主人公が、家族と数人の友人の間を 行ったりきたりしているだけ、ということになれば、展開が行き詰まる のも当然です。
そして、主人公の本来もっている力が発揮されないと、家族や友人との 会話場面が多くなり、主人公はそれらの場面をつなぐ便利屋のような扱い になってしまいます。
小説のスケールを本来の大きさに拡大し、主人公の力を最大限に引き出す ためには、会話と日常の描写から入るのはやめておいたほうがいいでしょう。 まず、主人公がどんな人物で、どのようなことに悩んでいるのか、何をしたい と思っているのか、その声を作者が聞いてあげることから始めるのが正解です。
最初はパターン的なことしか見えてこないかもしれませんが、だんだん主人公の 個性がわかってくるようになります。 これを軸にすれば、会話が多くなったり、主人公が便利屋になったりすることは ありません。
ストーリー内で何が起きても、それは主人公にすべてつながっています。 ストーリーを引きのばすためのエピソードは、主人公の緊張感を損ないますから 「これは削った方がいいな」と作者が自分で判断できるようになります。 小説を書いていて、展開に行き詰まっている人は、一度主人公をゆっくり観察して その力が十分に発揮されているか、調べてみてください。 そこから突破口が見えてくると思います。
小説の展開ポイントとして、もう1つ大きなものが作者自身の気持ちです。 これが落ち込んでいると、小説も単調になります。 小説を書きながら、今まで見えなかったものがはっきり見えてきて、その発見を 楽しめるなら、作品も読者を惹きつけるエネルギーをもつでしょう。
でも、作者がその小説を不満に思っていたり、迷いながら書いていると、 発見できるものも、目に入らなくなります。 これは小説の単調化をもたらし、読者に退屈な印象を与えます。 その小説が、読者を惹きつけられるかどうかの展開ポイントです。
こういうことは、意外と気にしないのですが、読者のまわりにあふれている 商品はすべて「アピール力」をもっています。 かんたんにいえば、マーケティング力ですね。
そういう「アピール力」が感じられないということは、 「小説の役割はもう終わりました。読まないでください」 と、読者に言っているようなものです。 現在の状況は、これにかなり近いですね。
一部の作家だけが、
・書きたい内容
・アピール力
の両方をもっています。
他の作家は、とくに書きたい内容があるわけでもなく、 「何で書かなきゃならないのか?」 「締切が迫っているから、しょうがない」 と思っているので、アピール力が出てくるわけがありません。 作家本人が、小説の意味を見失っています。
そして、おもしろいことに「内容」と「アピール力」をもっている人は どんなに売れても文壇からは無視されています。 現代の小説の行き詰まりは、近代小説の手法が通じなくなったからです。 小説の存在が否定されたわけではありません。
複雑な社会を観察し、独自のストーリーに組み上げる能力が、現在の作家には 必要です。 でも、そういうことを意識して、能力アップに取り組んでいる作家は少ない ですね。 たいていは、「書くことがなくなった」「小説は19世紀から20世紀のものだ」 「どうして本を読まないんだ? 読者の質が落ちる一方だ」 とネガティブな方向に考えて、そこでストップしています。
・作家の知識と観察能力が、現代の社会にマッチしていないだけだから、
これから焦点を合わせよう
・21世紀の小説は、これから出てくる
・読者が進化して、ストーリーに頼らなくても、抽象的なロジックで社会を
認識できるようになった
という具合に、ポジティブに考えられないのが不思議です。
現在は、近代小説の流れがどのように変化するかの展開ポイントです。 その変化の方向を指し示す作家が1人でも出てくれば、流れが決定して 小説が一気に変わる可能性が高いですね。
主人公がやたらと暗く悩みの中に落ち込み、どんどんネガティブな方向に 進んでいく小説とは、まったく逆のものになるでしょう。 本来の「物語」が戻ってくる可能性もかなり高いと思います。