イメージで理解できる脳を作る
■本を読むとき、たいていは1字ずつ追いながら、ときどきは前の行に 戻ったりして、ゆっくり読んでいます。 1分間の文字数は600〜700字くらいでしょう。
この読み方では、頭の中で文字を音に置き換えています。
そのぶん、スピードが落ちているわけです。 でも、文字をいったん音にしないと、意味を認識することができません。 そのため、速く読もうとすると、拾い読みになります。 これは、20世紀の後半には「本を速く読むためのテクニック」といわれた こともありました。
目次であたりをつけて、重要そうなところを拾い読みするというわけですが、 この方法では、まったく新しいことを学ぶときに誤読して、間違った解釈を する危険が出てきます。 現在、速読では1分間に1万字〜5万字は確実に読めますが、この場合、 もちろん1字づつ見ています。 飛ばし読みはしません。
速くなる理由は、文字を音にするプロセスを省略しているからです。 文字をイメージに直接変換するので、小説を読んだ場合は、映画を見ている ようにシーンが流れていきます。
論理的な本を読んだときには、書かれている内容が「感覚的に」理解できます。 いままでの読み方では、論理を追いながら、無理に頭に詰め込んでいましたが、 このやり方だと、すぐに忘れてしまいます。 感覚的に理解できると、すでにもっている思考体系と結びつきやすいので 忘れることはありません。
速読の場合は、目の動きをトレーニングしますが、本当に重要なのはイメージで 理解できる脳をつくることです。 これができれば、1分間に5万字を読みながら、新しいことが学べます。
このイメージ力は、実は学校教育が一番苦手な分野です。 むしろ、教室ではイメージや感覚を排除して、言葉だけを無理矢理暗記させて テストをするパターンで、生徒の能力を測っています。 この方法はテストをして、成績をつける先生にとってはとても楽ですが、 肝心の生徒にはまったくメリットがありません。
1日、6時間もかけて、その内容はテストが終わるとすぐに忘れてしまいます。 さらに、放課後は塾に行って、同じ内容を受験ベースで教わるのですが、 これも受験が終わると忘れてしまいます。 この二重構造で、学校関係者と受験教育関係者の生活は支えられています。 逆にいえば、この二重構造に子どもは振りまわされています。 その意味で、経済的な効果はありますが、子どもたちにとって学んだことが 身につかないデメリットは、かなり致命的な結果をもたらしています。
知識がないとか、そういうレベルの問題ではなく、「自分は何をやっても 結果が出せないんだ」という絶望的な無力感に支配された状態に陥っているのが いまの学校の現場です。
いま、イメージ力に一番、注目しているのはビジネス系の人たちです。 とくに、能力のある個人が独立した場合、イメージ力で新しいビジネスを つくりだし、オンリーワンになるという方法がとられています。
大手の会社ではイメージ力を使ったことを提案しても、ほとんど企画会議の 段階で潰されます。 さらに、決断に時間がかかり、実践のスピードが遅く、最初のイメージが 歪んでしまいます。 イメージ力を駆使するとき、大きな組織を維持することは「障壁」にしか なりません。
組織が小さいほど、有利な「イメージ力」ですが、作家にとっては あまり有効に働いていません。 現在の日本の作家にとって、一番重要なのは、まず現実をていねいに観察する ことです。 いまの社会の複雑さを理解するプロセスを抜かして、イメージだけを作っても その小説に魅力を出すことはできません。 小説に魅力がない原因を突き詰めていけば、結局、作家が現実を見ていない ことに行き着きます。
もともと、人間はストーリーを通して、いろいろなことを理解するように できていますから、これまで物語がなかった時代はありませんでした。
近代小説の流れで書いていても、おもしろいものが生まれてこないという ことは、もはやその手法が現代の社会にまったく合っていないということ の証明です。 ですから、小説が読まれないということは、読者が悪いのではなく、 作家が現実の社会を理解して、それを作品に落とし込むという基本的なことが できていないのです。
これができれば、放っておいても小説はどんどん読まれると思います。 みんな複雑な社会をなんとか理解しようとしていますから、そのニーズに 応えた小説が読まれるのは、当然です。
社会分析をした評論は、あまりニーズがないでしょう。 ノウハウやテクニックに徹すれば、一時的に売れますが、評論のような 論理的なものを追って社会を理解するというのは、少し無理があります。
というのも、たいていの読者にとって、そこには「正解」が書かれていて、 それを受け入れるだけだからです。 これは「カンニング」に近く、自分で考える機会をつぶしているようなもの です。そして、受け身で読んだことは、すぐに忘れます。 自分で考えるときは、その内容に疑問が沸いたときです。 つまり、評論内容が間違っているわけで、このレベルで考えても、 あまりプラスになるイメージにつながりません。
小説はイメージに直結していますから、読者にとっては、「自分だけの思考」 を育て、そこからオリジナルの展開をしていくことができます。 オリジナルの展開が加速されるということは、それだけ社会の多様性が増加 することですから、必然的に社会が豊かになります。
こうやって見てくると、イメージ理解を基礎にした速読は、現代では必須項目 です。 単に、1万字読めるとか、そういうことではなく、イメージで理解できる脳を 獲得している、ということが最重要ポイントです。