受け入れやすさを重視する
■前回は、作者がひとりで何でも背負う必要はない、という話をしました。 世界観をつくったり、人物の心理を掘り下げたり、それはかまわないんですが、 どうも完璧主義になる人がいます。
こうなると、細かいことが気になってきて、結局最後まで続きません。 それを避けるためには、読者にある程度「任せてしまう」ことが必要です。
設定を細かくつくったから、それをすべて伝えなければならない、 ということはありません。 このあたりは、完璧主義になるかどうかの分かれ道です。
作品を最後まで仕上げて、それを読んだ読者が楽しめる…… このことを主眼にしてください。 伝達と想像力は、作者がどのくらい読者を受け入れられるか ということにもつながっていきます。
そして、このあたりにポイントをおけば、多少文章力がなくても小説が 書きやすくなります。 実は、どんなに正確な描写をしても、作者が考えているような形でそのまま 読者に伝わることはありません。 必ず、読者の経験や知識からくるフィルターがかかってしまいます。
しかも、このフィルターは、常に強化されていきます。 同じものを見て、同じことを聞いても、人によってその解釈は違います。 これはもう、どちらが正しいかという問題を超えています。 作家は、このフィルターにどうやって対処したらいいのでしょうか。
むしろ、読者がフィルターを通して作品を読むことを前提にしたほうが いいのかもしれません。 それは、読者の想像力に任せることでもあります。 何でも伝えようとして説明する習慣から脱却することが、その第一歩です。
読者の想像力を前提にして、描写をできるだけ簡潔にします。 そうすれば、「必要最低限の設定」がどの程度のものか、作者の方にも見えて きます。 これは、わかりやすい小説を書く糸口になるでしょう。
伝達しようとする内容が、作者の意図したとおりに伝わらないのは、 文章力がないためとは限らないのです。 これは、ふつうに本を読んでいるときに、ちょっと注意してみればわかると 思います。 とくに、新しい内容が書いてある本の場合は、おそらく30%程度しか理解 できていないでしょう。 著者との知識レベルの差がそれだけ大きいのです。
小説の場合も同じです。 ふだん読み慣れているジャンルとは違うものを読んだ場合は、その設定が 何なのか、どんな人物が出てくるのか、まったくつかめていません。 読んでいるうちに、少しずつ慣れてきます。
ファンタジーやSFをふだん読まない人が、たまたまそれを読んだりすると ほとんど文字をなぞるようにして読んでいかないと、頭に入ってきません。 これはそのジャンルの内容を認識する用意ができていないからです。
学校で数学の時間に居眠りしがちな人は、数学の内容を受け入れる用意が できていないのです。 これは実は、頭がいいか、悪いかということとは無関係です。 単に受け入れる用意ができているか、いないかというだけなので、 この状態でテストをして、偏差値を出してもまったく意味がありません。
ですから、小説の場合も、読者が受け入れやすくすることが重要です。 書き出しの部分では、この意識をもっていれば、すんなり書けるように なるでしょう。 はじめから、カッコつけて難しいことを書く必要はないのです。
そのジャンルの内容に慣れていない人でも、受け入れられるような 1行目を書く。 これは作家として、立派な仕事といえるでしょう。 伝達の問題にしっかり取り組むなら、ここからスタートするのがいいと 思います。
もし、これを極めれば、あなたの個性として、誰もが認めるようになる でしょう。 それだけの奥深さをもっているテーマです。