作家にとって楽しいこと
■小説を書こうかなと思って、入門書を読むと、 たいてい、視点の統一っていうのが載ってますよね。
「私」が主人公だったら、私の見たもの、私の思考しか 書いてはいけない。 隣に座っている「片岡さん」が、何を考えているのか、それは ブラックボックスだ、というわけです。
でも、視点に注意しながら書いていても、ぜんぜん楽しくないです。 なんか、テストをしているみたいで。
それだったら、視点なんか気にしないでどんどん書いた方がいいくらい ですが、それもまた別の問題を引き起こします。 まるで種明かしのように、他の人物の考えていることを書いていったら ストーリーの構造が崩れてしまいます。
そこで、視点を統一できて、しかも書いていて楽しい方法を考えました。
それは……… まず、いきなり小説を書かないことです。
書く前に、主人公についてよく知ることが大切です。 ふつう、生年月日とか、趣味、好きな食べ物などを設定しますが 残念なことに、そういうものはストーリーを展開する上ではあまり 役に立ちません。
では、どういうことを知ればいいのか?
それは、たとえば
・どんな考えをもっていて
・どんなふうに歩き
・何を大切にしているか
といったことです。
小説の舞台になる街に引っ越してきた主人公。
彼は、その街をどう思っていますか?
街の中をどういうふうに歩きまわりますか?
自分の中に大切にしているものがあるでしょうか?
初めての街で、その大切なものは、主人公にとってどんな役割を
果たしますか?
まわりの人たちは、その大切なものを理解してくれているでしょうか?
小説を書くとき、主人公について知る必要があるのは、 こういうことです。
誕生日が1月3日でも5月15日でも、小説の展開にはほとんど
影響しません。
主人公が、新しい街をどう思っているか?
これは小説の雰囲気を決定する可能性をもっている重要事項です。
主人公が大切にしているものを、まわりの人たちはまったく理解して
いない。
これは、主人公の内面が成長するきっかけになる可能性があります。
主人公について詳しく知ることは 主人公の成長につながるエピソードを 作り出すエネルギーになります。
知ったことをすべて小説に出す必要はありません。 エピソードを作るエネルギーにすることが重要なんです。
主人公について深く理解する。
これができれば、
・主人公の動きが自然になります。
・説明的な描写が嘘のように消え去ります。
・他の人物の考えていることにまで、手を出さなくなります。
・主人公といっしょに旅をしているような感覚になります。
こういうことが「楽しくない」作家がいるでしょうか?
視点を気にしながら、エピソードを無理につないで妙に萎縮した
小説を書くより、はるかに生き生きした作品ができるはずです。
驚くかもしれませんが………
主人公の見たものをそのまま書けば、
それが作品のオリジナル性に結びつきます。
主人公の「心理」と「視線」がぴったりくっついているからです。
独特な心理が、そのまま視線に反映します。 「主人公を知る」ときには、このレベルまで掘り下げてください。 これが本当にオリジナルの作品を書くときのポイントです。 テクニックではありません。
もし、これがテクニックに見える人は、ちょっと危ないです。 テクニックにつかまっていると、主人公の本来の姿、もっている 可能性、特有の癖が見えてきません。
本来、存在しているオリジナル性が、テクニックによって 「一般化」されてしまいます。 テクニックから離れられない人は、思い切って、ストーリーを作る 意識も捨ててください。 とにかく黙って主人公を観察して、その本来の姿を見るようにする ことが重要です。
これは、ストーリー作りよりも、ずっと深いレベルです。 極めた状態なら、主人公の動きがそのまま詩になります。 そういうレベルなんです。 テクニックに頼っていると、絶対に到達できません。
このレベルで観察すれば、同じ人間はひとりもいません。 そして、個性・独自性といった要素が、必ず他の人の 役にたちます。 道徳とは関係ありません。 本来の個性・独自性というのは、そういうものなんです。 テクニックは、このレベルの個性・独自性を隠してしまいます。
テクニックとは無関係に、ひたすら主人公を観察する。 その動きを見逃さない。 主人公の声に注意深く耳を傾ける。 そういうことを続けていると、自然に到達する領域です。
本当にオリジナルの作品をかいてみたい方は、やってみて ください。 実際に、原稿を書き出したときのノリが、まるで違います。 視点の問題なんか、とっくに乗り越えてます。
そして、気づくことも多いでしょう。 その気づきの中には、あなたがどうして小説を書いているか ということも含まれているかもしれません。