主人公にふさわしい行動
■マンガの場合は、とくに
主人公のアクション=ストーリー展開
という見方をすることが多いですね。
でも、小説も含めて考えると、それほど、アクションが 派手でない場合もあります。
たとえば、「どうしようか……」と悩んでいる場面。 でも、悩んでばかりもいられませんから、それを解決する ために何かの行動をとります。
「眠れないから、どうしよう」と悩み、 それを解決するために「病院に行く」。
これも行動ですよね。 でも、読者がこれを読んで感動するかというと まずしないでしょう。
とはいうものの、そういう行動を書いて読者を感動させるのが作家です。
もし、それができなければ、派手なアクションを 書いても読者を惹きつけることはできないでしょう。
そういうものなんです。
作品をかく立場になるとわかるのですが、作家は 最初に主人公をよく観察して、詳しく知る必要が あります。
なぜかといえば、 アクションは、その主人公にふさわしいもので なければならないからです。
アクションが派手な方がカッコいいからといって、 おっとりした主人公が、いきなり戦い出すと読者は ついていけません。 感動どころか、ストーリーの連続性が失われているため、 しらけてしまいます。 (連続性を失って、なおかつ読者が受け入れられる ようにすると、ギャグマンガになります)
ですから、主人公にふさわしい行動をかくことが第一です。 (それが、障害物が何もない平坦な道で転んだという 「行動」でもかまいません)
そうすれば、ストーリーの連続性が保たれるので、 読者は安心します。 連続性を保った上で、感動のストーリーをつくる。 これが作家です。
たとえば、新聞や雑誌を読んで「感動した話」をもってきても、 それは小説では使えません。 主人公と関わりをもたせることができないからです。
その小説がもたらす感動は、主人公の内側から出てきたもので なければなりません。 というより、それ以外のもので感動させることは不可能です。 このため、作家は知識を増やすより、主人公についてくわしく 知ることのほうが、はるかに大切なことになってきます。
・知識を吸収するのが好き
・でも、架空の人物についてあれこれ考えるのは無駄な気がする
こういうタイプの人は、残念ながら作家に向いていません。 知的な優秀さというよりも、趣味・嗜好の問題です。
さて、一見、平凡な行動で感動させるためのポイントは何でしょう?
それは、主人公の内側から出てくる「些細な感情」「些細な行動」を 大切にすることです。
眠れない→病院に行く
すんなり病院に行ったのでは、主人公の些細な感情を描写する素材が 見つかりません。
「病院には行きたくない」という感情をはさみこむことが必要です。 その感情を乗り越えて、「病院に行く」という行動を起こす。
そのようにすると「感情を乗り越える」箇所に、ちょっとだけ感動の要素が 入ってくる可能性が出てきます。 問題は「乗り越える」ハードルをどのくらい高くするかということです。
かんたんに越えられるハードルなら、短編でもかけますが、 高くなるにつれて、作品も長編化してきます。
さらに、主人公の年齢によっても、ハードルの高さはまるで違ってきます。 たとえば、「その病院に行く道には野良犬がいて、吠えかかる」 というハードルは、主人公が幼児ならば成り立ちます。
『はじめてのおつかい』という絵本が、なかなか読ませる内容をもって いるように、これも立派な冒険談になります。 (ただし、作家の側からみると、幼児が不眠症になるという設定 そのものが、高いハードルになってしまうでしょう。 そちらのハードルに意識を集中した場合、野良犬ではハードルの 役を果たさなくなってしまいます)
「その病院の医者が、前につきあっていた恋人で、今は会いたくない」
「そもそも、不眠症になったのも、恋人と別れたのが原因だ」
というハードルは、わかりやすい上に、それなりに高いですね。
これは、主人公が二十代という設定のもとなら生きてきます。
「病院が苦手だから」「医者が嫌いだから」というのは一般的すぎて、 主人公の感情が具体的に入ってきませんから、論外です。
ストーリーを形成する主人公の「行動」は、実際にかこうとすると このように「感情」がからんできます。 そして、主人公にとって、もっともふさわしい行動を選ばなければ なりません。 「行動」という外見的なものを支えているのは、内面に揺れている 感情です。
この感情を注意深くとらえるほど、行動の描写が主人公にふさわしい ものになり、リアリティが増します。
逆にいえば、主人公の感情に基づかない行動をかいても、
読者には伝わらないというわけです。
・表面的なアクションの派手さは無関係
・感情の揺れを反映した行動を描写する
そして、感情はストーリー上では「ハードル」として表され、 主人公がそれを乗り越えるところに感動が生まれるわけです。
しかも、そのハードルは主人公の年齢によっては、まったく機能 しない場合もありますから、単に障害物をおけばいいという ものではありません。
ストーリー設定上、最も基本的な「主人公の行動」について 少し考え始めただけで、これだけの問題が出てきてしまいます。
作家は、作品をかく前に、こういう問題についてできるだけ考えて いちおうの「解答」を用意し、初稿をかきながら、主人公を見つめ なおして、不自然な行動を修正していきます。
これは作家が頭で考えるというより、主人公の声を聞きながら その行動をゆっくり記録していく、という感じに近いものに なります。
これができるかどうかが、作家として生きていけるかどうかの 1つの分かれ目です。 (別に、趣味で書いていてもいいんですけど)
さて、あなたは自分の作り出した主人公を、ゆっくり焦らず 理解していくことができるでしょうか?
とりあえず、ちょっと試してみようという方は、短編をかいてみると いいですね。 実際にやってみると、それをやる前には気づかなかった何かを得る ことができます。